今村祐嗣のコラム

ユースクラス

よくこの材料、あるいは木材は何年もちますか、とい う質問を受ける。しかしこれに的確に答えるのはそうそ う容易ではない。そういった耐用性は、材料のもつ性能 と使われ方によって影響を受けるのはもちろんであるが、 その材料が使用される環境条件によっても左右される。 特に、腐朽や虫害といった生物的な劣化にかかわる耐用 性、耐久性は、どういった使用条件下にあるかによって 大きく変動する。
 土の中に差し込まれた木の杭を見てみよう。一番激し く腐っているのは、きっと地面に接するあたりで、つい で先端付近では割れが生じたり内部が腐朽している様子 が観察されるはずである。一方、雨のかからない住宅の 室内部材は、漏水や結露などがなければ腐れが発生する ことはほとんどない。このように使われる状態が、暴露 されているか外界から保護されているか(暴露か非暴露)、 土に接しているか接していないか(接地か非接地)、によっ て木材の耐用性は大きく変わってくる。
 このような使用環境による分類は、かっては劣化要因 の激しさの度合いという意味でハザードクラス(危険等 級区分)と名づけられていたが、現在はユースクラス(使 用環境区分)と呼ばれている。林産物の国際間の流通促 進を目的として、規格の国際標準化を目指した作業が ISO/TC165(木質構造)の委員会で審議されてきているが、 木材保存分科会では長期間の論議を踏まえ、昨秋にユー スクラスについて参加国の合意形成に至った。すなわち、 全体は大きく5 段階に分類されていて、1 から3 までが非 設地、4 が設地、5 が海中での使用となっている。さらに 非設地のクラスのうち、1 と2 は非暴露の室内環境、3 は 外界に暴露された環境というように分けられているが、1 と2 の違いは常に乾燥状態にあるか、あるいは時に湿潤 状態になるかで区分される。
 したがって、ユースクラス1 の劣化因子はヒラタキク イムシのような穿孔性害虫だけであるが、2 になると変色 菌や腐朽菌が加わり、国や地域によってはさらにシロア リを考慮する必要が生じてくる。3 では腐朽や虫害の危険 レベルが高くなるが、4 になると土中での水分供給が増し て軟腐朽も対象になってくる。5 では腐朽や虫害はもちろ ん海虫も劣化要因となる。さらに1 ではカンザイシロア リの有無、2 ではシロアリの有無、3 では雨水に直接暴露 されるか間接的なものであるか、4 では生物活性の程度と 淡水に常時接するかどうか、5 では海虫の種類によってそ れぞれサブクラスに分かれている。
 ここで示されたユースクラスは、耐久性樹種や耐久設 計法、あるいは保存処理をそれぞれの区分で採用しよう とする場合、どのような評価方法を適用すれば良いかを 検討する際の参考になる。建築物については部位によっ て区分が異なるが、それは建物がきちんと設計・維持管 理されていることが前提となっていて、通常より劣化の 危険性が高いと予想される場合は高次の区分を割り当て ることになっている。