今村祐嗣のコラム

風化と塗装

今年の夏、わが国は冷夏であったが、ヨーロッパは晴 天続きで異常高温に襲われたと報道された。北欧の国で は強い紫外線の影響による皮膚がんの発生に注意するよ う呼びかけられているとも聞く。
 ところで、木材も日焼けを起こす。木材の変色は短期 間で生じるが、初期の段階の変色は光酸化に伴う木材成 分の化学構造の変化によるものである。濃色の材は明色 化し、淡色の材は暗色化する。その後、薄い灰色になる。 木材はその化学構造から非常によく太陽光を吸収する物 質で、とくにリグニンやポリフェノール類は紫外線を吸 収しやすい構造をもつため、光分解作用を受けやすい。 分解された成分の多くは水に溶けやすく、雨水により容 易に木材表面から流れ出る。したがって表面層はセルロー スリッチとなり灰色化する。
 公園のベンチや庭の縁台など屋外におかれた木材が、 樹種に関係なく暗灰色化しているのは、上の現象が進行 した後、カビなどの付着による斑点状の黒色のシミが発 生し、これが進行して最終的には暗灰色化することによ る。
 また、古い寺社仏閣の雨ざらしの場所にある木材は、 洗い出したように表面が粗くなっているのを目にするこ とがある。光分解と雨水による溶出が繰り返され、順次 現れる内部の新鮮な部分も同様に光分解を受け、結果と して木材表面は早材部を中心に劣化が進行することによ る。これは風化と呼ばれる現象であり、針葉樹材の風化 速度は100 年で5 ~ 6 mm ともいわれている。
 さて、景観材料としての木材では表面性によって評価 されることが多い。そのため表面の保護塗装が行われる が、屋外使用の木材では塗膜の耐久性維持が大変難しい。 これは、木材が親水性材料であること、軟らかく複雑な 表面形状をもっていること、それに紫外線の劣化を受け ることなどによるが、塗膜の下に繁殖するカビ類なども 原因となっている。塗膜の耐久性を向上させるには、基 材の寸法安定性を上げる、塗料の顔料を増やすなど考え られるがそうは簡単ではない。
 木材の保護着色塗装は、塗膜を形成する造膜タイプと 浸透性の含浸タイプに分類できる。屋外塗装の耐久性は 造膜タイプが含浸タイプに比べてやや長いが、含浸タイ プのものは、木材の質感をある程度残すことができ、メ ンテナンスが比較的容易である。塗膜の耐久性は、日射 量や雨量の影響を大きく受けるため地域によっても差異 が著しい。また、設置された場所の方位や位置関係、あ るいは施工された季節によっても塗装効果の劣化速度が 異なるため、 それに対応して、 メンテナンスに注意を払わ ねばならないのはいうまでもない。