今村祐嗣のコラム

フィジカルバリヤー

フィジカルバリヤー

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 しかし、蟻返しや防蟻シートは土台や基礎周りへの取り付け部分に留意したり、床下コンクリートも長期にわたり割れ目が生じないように注意する必要がある。隙間が生じるとむしろシロアリの侵入を誘い込むことになりかねない。まだ十分に使用実績の乏しいフィジカルバリヤーでシロアリの加害から住宅を完全に守るには、ある程度のリスクを仮定した上で診断方法とメンテナンスを組み合わせるなりして、施工とチェックとを同時にシステム化しておくことが不可欠である。
工法の変化とシロアリの多様化 
ところで最近の住宅では、省エネルギーのために高気密、高断熱性が優先され、壁内や屋根裏だけでなく外断熱として基礎の外回りにも断熱性の高い材料が使用されることが増えてきた。ここでよく用いられる発泡系のプラスチック材料はシロアリによって加害されることが多く、断熱性能を低下させるだけでなくシロアリに対して快適な生息場所を提供することにもなりかねない。さらにシロアリに加害される恐れのある材料が基礎の外側にあることから、従来の床下バリヤーだけで対処することが困難である。 一方、シロアリ対策は建築工法の変化だけでなくシロアリそのものの多様化という課題にも直面している。ヤマトシロアリは世界でもっとも北まで分布しているグループに属しているが、わが国では全国的に分布し、
イエシロアリの兵アリの頭部 写真―2イエシロアリの兵アリの頭部(ハサミ状の大顎で敵にかみつく)
本州以外にも北海道の旭川市でその生息が確認されたのを皮切りに、最近では北限がさらに北上し名寄市においても発見された。厳寒の冬期でも土中の木材中ではシロアリの生息が可能なのでは、あるいは気密性や断熱性の高い住宅工法が進んでシロアリにも好都合になったのでは、と色々推測されている。また、外国からわが国への移入種で問題化しつつあるのがアメリカカンザイシロアリである。この種はどうやら米国から移ってきたシロアリのようであるが、イエシロアリやヤマトシロアリと生活の様子がまったく異なる。生活のほとんどを住宅の構造材や造作材あるいは家具などの乾燥した木材の中で過ごし、木材中に含まれる含有水分を有効に利用して活動する。この特異な生活様式ため、その発見だけでなく防除することがきわめて難しい。 安心して住宅を長期間にわたりシロアリ被害から守るためには、ますます柔軟で新しい発想が求められているようだ。