今村祐嗣のコラム

DMのすすめ

(社)日本木材加工技術協会は、今年に創立60周年を迎えられ、色々の記念行事が企画されているとうかがっています。奇しくも、われわれの(社)日本木材保存協会も、今年は協会が法人として設立されてから30周年という節目の年になります。還暦になられた加工技術協会には及びませんが、保存協会もまさに人で言うなら壮年の域に達したということでしょうか。実は、大正末期に設立された保存協会の前身である日本木材保存会は、戦後の一時期、加工技術協会内に事務所を置かせて頂いて種々の便宜を受けていましたが、その後、業務は同協会内の保存部会に引き継がれました。さらに、昭和49年には一専門部会から日本木材保存協会として独立し、昭和53年に農林水産省と通商産業省(現経済産業省)の両省共管の社団法人として認可されたという経緯をたどっています。
ところで、この巻頭言の表題は「DMのすすめ」とさせて頂きましたが、DMはダイレクト・メールのことではなく、Detection アンド Maintenanceを勝手に略したものです。D(ディテクション)は劣化の診断や発見、M(メンテナンス)は保守や維持管理を意味しています。
木質部材や住まいの耐久性の向上を目標にして、最近は、環境負荷の低い方法を模索する技術開発が積極的に取り組まれています。特に、シロアリに対する防除方法も、薬剤の使用量を減らすレスケミカルの方向にあり、さらに物理的方法などノンケミカルな手段も試みられ、ますます多様化してきています。しかし、このような、ある意味ではパッシブな方法で、いわば腐朽菌やシロアリと「共生」して耐久性を維持するというのはそう簡単ではありません。そこでは、できるだけ早期に劣化を診断し、適切に維持管理して長持ちさせることが大切になっているといえます。一方、木材はそのアメニティさを活かして、日射や風雨にさらされる環境で使用されることも多くなっていますが、世界の先進国の中でも雨量、特に夏場の雨の多いわが国では、短期間のうちに変色や退色だけでなく、表面からの割れの発生によって内部に腐朽が引き起こされることもみられます。これらのエクステリア材料の表面性を保つ保護塗装においても、早めのメンテナンスは欠かすことができません。
保存協会では、一昨年度に「木材劣化診断士」の制度を発足させました。木材の生物劣化(腐朽と虫害)の診断技術を木材保存に関わる技術者に講習し、一定の知識と技術を取得した者に資格を付与しようというものです。この制度はとりわけ保存処理木材(注入処理)の製造者が、使用下にある木材製品の維持管理を適正に行うことにより、製造者としての社会的責任を果たすための活動の一環として開始したものです。この木材劣化診断士は、外構を中心する木質構造物の生物劣化の現況を診断し、また、補修や修理あるいは維持管理に関する助言を行うことが主たる任務になりますが、習得した診断技術は住宅などの劣化診断にも適用可能なものになっています。いわば、医療の世界でいう「臨床検査技師」のような位置づけにあるわけで、まさに生物劣化の専門インスペクターです。
さる6月2日に開催した保存協会の創立30周年記念シンポジウムでは、「長寿命化住宅と木材保存」をテーマに取り上げましたが、住まいの耐用性の延伸には設計、材料、処理、施工とともに、劣化診断と維持管理の重要性が指摘されていました。特に住まいの長寿命化にはこの二つを欠かすことができません。木材の使用期間を長くすることは、固定された炭素の放出を防ぐという意味で地球の温暖化防止にも寄与します。このためにも、DMを積極的に進めていきたいと思っています。


(社)日本木材保存協会会長時  木材工業、63巻、295ページ、2008)