4. 木材保存処理の動向
4.1木材保存剤
ボードウォーク等にはジャラ、ボンゴシ、ウリン、イペ等の海外から輸入された、いわゆる「高耐久性樹種」と称される耐朽性・耐蟻性の高い木材が使用されることが多い。確かにこういった樹種は腐りにくく、鉄木と呼ばれるウリンのように熱帯の高温多湿の環境でも50年以上わたり使用されている例もある。しかしそのほとんどが天然の森林から伐出されるものであり、蓄積量が少ないうえ再生産が難しい。一方、持続的な資源利用という視点から造林樹種の利用が大切であるが、腐れやすく虫害を受けるものが多いのが実情である。
それらに耐久性を付与するために、防腐・防蟻の効力を持つ保存薬剤による処理が行われてきている。木材内部まで薬剤を浸透させる加圧注入処理には、かってはCCAが世界的に広く用いられていた。CCA薬剤は、銅、ヒ素、クロムを成分とする水溶性の防腐・防蟻剤で、いったん木材に処理されると薬剤成分が固着し容易に溶出しないことや、腐朽やシロアリに対する広範な効き目もあって、1960年代から世界的に使用が拡大され、わが国においても製材品の加圧注入処理の主流となった。しかし、製造工場での汚染防止の課題、処理木材の廃棄、とくに焼却時における環境汚染の問題などのため、CCAはわが国においてはJIS規格からも削除され、世界的にもその使用は限定されたものになっている。
薬剤を用いる保存処理においては、 劣化を防ぐことによる利点と健康や環境への危険性のバランスシートにのっていることはいうまでもない。 とくに保存処理された木材が、 デッキや遊具あるいはウォーターフロントの部材など屋外の景観材料や土木資材としても用いられる場合では、長期間にわたる効力の信頼性とともに、環境や安全性への配慮がとくに求められ、”信頼性の高い”と”環境にやさしい”の両方の性能を備えた保存処理が従来にも増して模索されてきている。
現在、注入処理用の防腐・防蟻薬剤は、水溶性薬剤ではCCAに代わりヒ素やクロムを含まない防腐・防蟻剤、すなわち無機系の銅に有機系薬剤である4級アンモニウム塩やアゾール系薬剤などの有機化合物を加えたもの、防腐と防蟻の有機系薬剤の混合薬剤、あるいは油性薬剤としてはナフテン酸亜鉛やナフテン酸銅のようなものに移行してきている。また、かっては鉄道枕木に主に用いられてきたクレオソートにおいても悪臭、皮膚刺激、発癌性成分の存在が問題となり、現在では毒性の高い留分を除いた新しいタイプのクレオソートに代わってきている。こういった木材保存剤は、防腐効果とシロアリに対する防除効果の両方を備えているものであり、用途によって注入量や木材中における浸潤量が規定されている。(【改正JIS K1570「木材保存剤」、【改正】JISK1571「木材保存剤-性能基準及びその試験方法」は近々告示される予定。)
4.2ノンコンベンショナルな保存処理 6)
最近は、木粉と熱可塑性プラスチックを混合して、押し出しや射出により成型した木粉・プラスチック複合体(WPC)が、デッキやボードウォークの材料として使用されることも増えてきている。こういった材料は耐久性や強度性能の向上を謳っているが、いわゆる保存薬剤によらない処理も耐久性の向上を目的に行われることも多い。
フェノール樹脂を注入硬化した木材やLVLは、エクステリアとしての用途を想定して、耐腐朽性や耐シロアリ性をもつ耐久性材料としての展開をねらったものである。フェノール樹脂を含浸処理では、注入する樹脂の分子量を小さくすると、木材細胞の壁中に安定な形で樹脂を沈着させることができ、硬さだけでなく寸法安定性や耐腐朽・耐シロアリ性も向上する。重合前の遊離フェノールの毒性は高いが、木材中で硬化させた場合は安全な3次元構造体をつくる。したがって、木材の細胞壁の中にいかに効率よく含浸させるかがこの手法のポイントになる。樹脂の分子量が約500のところが細胞の壁の中に浸透するか、 それとも細胞の内腔面でトラップされるかの境界で、 それより大きな分子量の樹脂はいくら注入しても、寸法の安定性はもちろん耐腐朽性などには何ら効果は得られない。したがって、接着剤に用いる樹脂ではそういった機能性を付与することはできない。
木材は環境に調和した材料であることから、よりマイルドな処理や天然物との組み合わせも保存処理の方法としてよく話題に上がる。例えば、建材にヒバ油などの樹木から採集した精油を含ませて抗菌性や抗ダニ性を与えたり、木炭の製造過程で得られる木酢液を木材に含浸して防腐・防虫性を付与する処理である。
ヒバ油の主要成分はヒノキチオール、すなわちβ-ツヤプリシンと称されるものである。この成分は揮発性のテルペンの中でも特に抗菌性が高く、ヒノキそのものには存在しないが、アスナロ、タイヒ、ネズコなどに含まれている。シロアリに対しても忌避する効果があり、ヒバ材の高い耐蟻性の原因となっている。しかし、一般的にこれらの成分は揮発性であるため持続的な効力は乏しく、定期的に再処理する必要がある。
一方、木炭をつくる時に発生する煙りを冷却、凝縮すると木酢液が得られる。主成分は酢酸に代表される酸類であるが、アルコール類、フェノール類、アルデヒドやエステルなどの中性物質など約200種類以上の化合物が含まれている。木酢液は食品加工用の燻液、土壌改良剤、植物活性剤、消臭剤、除草剤など広い用途に用いられているが、また、微生物を抑制する効果をもっている。この木酢液を製材品に含浸処理すると防腐、防かび、防虫などの性能が得られる。が、課題は水で溶け出しやすいということで、屋外で使用する際には溶出しない工夫が必要である。
天然物を利用する処理で留意しなければならないのは、得られた性能が現在の尺度での評価基準には適合しないことが多いということである。例えば、木酢液の場合では、含まれる成分の種類が多く、原料や炭化方法あるいは保存状態によってもその組成は変化しやすい。また、効果に関してもプラスにはたらくものとマイナスの効果をもつ成分が同時に含まれおり、漢方薬的なファジーさを含んでいる。
これらの処理については、古よりの丸太表面の焼き処理などと共通するものがある。焼きスギの丸太が園芸用の支柱に用いられることも多いが、炭化層は安定であるにしても、その内部は熱による分解作用を受けて、むしろ腐りやすい状態になっている。このようなものでは、性能が十分に発揮できる最適な用途と、メンテナンスを含むソフト面の裏付けがあってはじめて成り立つと思われる。
表-1 おもな木材(心材)の浸透性ランキング
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針 葉 樹 |
広 葉 樹 |
良 好 |
ヒバ,サザンパイン, レッドウッド, |
ヤチダモ,ケンバス, ゴムノキ |
やや良好 |
アカマツ,スギ,
ツガ,ベイツガ, |
カバ,ジオジ, イエローメランチ |
困 難 |
エゾマツ,トドマツ, ヒノキ,ベイモミ, |
ブナ,ケヤキ, カプール |
きわめて困難 |
カラマツ,ベイマツ, ベイスギ |
クリ,ミズナラ,
ホワイトオーク, ジャラ |
6. 劣化診断と保守管理
木質の建築構造物や部材に腐朽や虫害などの劣化が発生しているのか、あるいはその進行がどの程度であるかを的確に知ることは、 構造安全性を維持し、耐久信頼性を向上させる点から必要であるばかりでなく、効率的に保守を行っていくうえでも大切である。
ところで、木質部材に腐朽や虫害など生物的な因子が作用した場合、他の劣化要因と異なり、その影響は劇的に生じ、従ってあらかじめその進行速度を予測することは容易なことではない。また、部材の表面から劣化が進行するとは限らず、むしろ腐朽やシロアリの食害は内部で生じることが多く、その検出を一層困難なものにしている。
実際的に劣化をチェックする基本的なポイントは、腐れやシロアリなどの劣化要因の生理・生態をよく理解し、被害発生の防止と早期発見につとめることにある。また、劣化を起こしやすい部位に注意する必要がある。
土木など外構材料の場合、2節で述べたように、土壌に接する部分、特に地際付近が一番腐朽によって劣化しやすい。これは周囲から水分が供給されるとともに、付近に劣化を引き起こす微生物が多く存在するためである。地表に置かれた木材では、雨水による膨張と乾燥による収縮によって割れが常に発生し、ここに水が滞留する。また、日射も割れの発生を促進する。そのため、縦使いの部材より水平部材において、特にその上面で割れが発生しやすい。また、ボルトやプレートなどの金物による接合部も、腐朽劣化の発生箇所として注意しなければならない。
以上の視診、打診、触診が一次診断とすれば、適切な治具を利用して客観的な判断を下そうというのが二次診断である。化学的な識別法、あるいは木材内部への物理的なボーリング方法(ピロデインやレジストメーター)、音響伝播を利用する手法が試みられているが、現場で安定した判断を下すにはまだ課題を抱えている。
7. おわりに
「木の文化」の国といわれながら、われわれ日本人は本当に木材をうまく使いこなしているであろうか。住宅を例にとってみても、先進国の中でも極端に短い耐用年数、新築後は一方的に下落して行く住宅価値、最近はほとんど意識の外に置かれた劣化の診断や保守・管理、など考えさせられることは多い。また一方で、住宅の耐用年数を長くすることは解体時期を延ばすことであり、すなわち建築物からの廃棄物を減少させ、炭素の放出をできるかぎり抑制することでもある。
参考文献