さる1月15日に開催した本学会材料部門委員会の第249回定例研究会の講師には、京都大学名誉教授で(財)日本木材総合情報センターの“大阪木の何でも相談室”の佐道 健先生をお迎えした。この相談室は一般の方や業界からの木材に対する質問や相談に応じるために、林野庁の肝いりで東京と大阪に設置されているものである。木材は住宅の構造用・化粧用材料として、あるいは家具や工芸材料として、さらに最近ではガーディニングブームを反映してエクステリアウッドとして身近に用いられているため、木にまつわる色々の問い合わせが寄せられている。研究会では、材料という視点から木材を考える上で示唆に富む内容をお話頂いたので、そのいくつかを紹介したい。
「国産材は外材に比べて優れているか?」:わが国の木材使用量に占める外材(輸入材)の割合は8割に達しようとしているが、一方でスギやヒノキなどの国産材への愛着も高い。ただどちらが優れているかという問いに対しては、それぞれの樹種が用途に適した性能を備えているかが重要であると答えざるを得ず、後は使用者の嗜好に左右されることになる。ただ、国産材の利用促進がうたわれているのは、日本の森林を育成して上からも国産材とくに造林木を使う必要があるという社会的要請によるものである。
「心材は辺材よりも強い?」:スギなら赤い色をした中心部の心材の方が、周囲の白っぽい辺材より強いと思っている人は多い。これは腐朽や虫害に対して“強い”ということであれば正解であるが、力学的な強度には関わりがない。むしろ中心部には強度が低い未成熟材が存在する。また、国産材のスギの強さ、強度が産地によって違うのか、という質問もよく寄せられるそうである。品種や保育方法による強度の差異はよく指摘されるところであるが、製材品の強度は通常±50%程度の変動があり、平均値の大小よりばらつきによる差が大きい。最近ではヤング係数で機械等級区分したMSR材が提供されるようになってきている。
木材の調湿機能についての質問も多いようである。樹種による差(吸湿キャパシティと木材内部での湿気の移動速度に左右されるため一概に言えない)やボード類なども効果があるのか(木質であれば期待できる)などである。これは住宅内装材料としての木材への期待が大きいことの反映であろうが、木材が調湿作用をもつ材料であっても、結露しないというわけではない。木質内の水分が飽和すると毛管内に水分が凝縮し結露が生じ、カビの発生や腐朽につながる。
そのほか、言葉が一人歩きしている例(間伐材―本来は森林の育成過程で抜き伐りされてきた木材という意味)やマスコミなどの自然物志向が行過ぎて科学的根拠を欠いている例(テレビの上に木炭を置いておくと有害な電磁波を吸収する)など、木材ならではの興味ある話題が提供された。
さて、今年の材料学会学術講演会では、木質材料関連として「メートルからナノへー木質材料の新たな展開」と題したオーガナイズドセッションが企画されている。木材あるいは木質材料においては、製材品や集成材(メートルからセンチでの利用)、各種のボード類(センチからミリの寸法のエレメントから構成)、プラスチックなどとの複合材料や化学処理した機能化木材(ミリからミクロンのオーダーでの処理)、など種々の寸法段階で加工や処理が行われてきていることに対応したものである。
さらに最近ではナノレベルでの木材の機能開発が試みられている。これは木材の細胞壁を構成するセルロースやリグニンの形成機構の分子構造的な研究や、木材のナノ構造と物性とのかかわりについての研究とも関連して、木質からの新素材や新機能材料の開発をナノレベルで考えていこうというものである。その先鞭をつけている感のある炭素材料の分野では、木質由来の伝統的な材料である“木炭”から、カーボンナノチューブやダイヤモンド構造といった新素材ナノエレメントが発見されるようになった。
片や再生資源として循環型社会の構築にますます重要性を増している木質は、また他方では化石資源に依存しない新素材開発の原料としても期待されている。