今村祐嗣のコラム

創立30周年を迎えて

 社団法人日本木材保存協会が創立30周年という節目の年を迎えられましたことを、皆さん方と一緒にお祝い申し上げたいと思います。当協会の前身は、大正末期に設立されました木材保存研究会に遡ることができますが、戦後、その業務は社団法人日本木材加工技術協会内の保存部会に引き継がれました。その後、独立した団体設立の気運が盛り上がり、昭和49年に日本木材加工技術協会内の一専門部会から任意団体であります日本木材保存協会が誕生致しました。しかし、木材保存関連産業の一層の発展と消費者保護の徹底を期すためには、法人格をもった権威ある団体にしなければ、という当時の先輩の方々の思いがつのり、昭和53年12月25日に農林水産省と通商産業省(現経済産業省)の両省共管の社団法人として認可され、今日に至っています。
社団法人として設立後は、木材保存に関する調査・研究や規格・基準の作成等を実施して、木材保存処理技術の向上及び木材保存処理の適正化をはかることを目標に、木材保存士の資格制度の確立、木材保存剤の認定制度の創設、木材保存技術奨励賞の発足、年次大会の開催等の学術的機能の強化、また、機関紙「木材保存」などをはじめとする情報の普及や啓蒙活動の実施、さらに木材保存に関する諸外国との交流の推進、等が行われてまいりました。
さらにこの10年を振り返ってみますと、顕彰事業につきましては技術奨励賞に加えて学術奨励賞が設置され、今年で、技術の方は19回、学術の方は5回を数えるに至っています。また、木材保存士制度に加えて、一昨年に始まりました「木材劣化診断士」の制度は、現在では51名の方が資格をお取りになり、外構材を中心する木質構造物の生物劣化の現況を診断し、また、保守管理について助言を行う任にあたって頂いています。JAS、JISにかかわります規格や当協会が制定した試験方法の見直しにつきましても、時代の要請に対応しながら適切な改正を推し進めてまいりました。木材保存剤の審査制度に関しましては、財務的な問題あるいは審査の社会的な位置を高めるという観点から、審査体制の変更を行いました。さらに、技術の普及や啓蒙活動につきましても、各地に出向いての出前講演会や会誌「木材保存」だけでなく、協会ホームページを充実させることでインターネット時代に対応した情報の円滑な伝達を図っています。
当協会の現状としましては、より安全性や環境に配慮した保存処理技術への社会の関心の高まりに対応しながら、一方で耐震性などの構造信頼性に応える耐久化技術を確立する必要があり、また、多様な保存処理材料や保存処理方法あるいは用途に応じた適切な耐久性の評価方法や基準の検討、関連技術者や一般消費者への木材保存についての広報活動、等々に積極的に取り組むべきであると思っています。
さて、最近の保存業界は大変厳しい環境の中にありますが、一方で、地球環境の保全と温暖化防止の観点からは、木材を積極的に使用に、これを長く使用していくことは、今後の持続的な社会づくりには大変重要なことであります。創立30周年の記念シンポジウム「長寿命住宅と木材保存」の中でも取り上げられましたように、政府が唱えています長寿命化住宅には木材保存を通じた耐久性向上がきわめて大切な要件になってきています。
ところで、創立10周年を記念して昭和60年に刊行されました「木材保存の歩みと展望」の中に、今後、協会あるいは木材保存業界が取り組むべき課題が述べられていますが、そのうちの多くは現在でも傾聴に値するものであり、ご紹介させて頂きたいと思います。

1.保存技術の開発については、学協会のサポートが必要なことはいうまでもないが、人の集まりの中に開発の場があると認識すべきで、見えざる研究所という考えを尊重すべきだ。
2.薬剤の開発については長期的な視野に立ち、新たな分野に積極的に果敢に挑戦すべきである。 3.すぐれた技術者を育成することが大切で、積極的な情報の入手と交換だけでなく、産官学の共同研究の推進、人的交流の促進を進めるべきだ。 4.いずれきたるべき石油の枯渇に対応できる潜在能力をもつものは木材そのものであるから、その重要性は次の世紀こそ高まるものであり、木材保存の重要性も今後増すものと思って間違いない。

 というような内容であります。
もう一つ、今から10年前の創立20周年を記念して、関連の協会や団体の長を集めた座談会が開催され、その内容が木材保存誌に掲載されています。そこから、気のついたキーワードを拾ってみますと、

1.ガードレールをはじめ道路付帯施設の外構材に市場を広げるべきだ。
2.加圧処理木材の性能信頼性は薬剤の浸透技術にかかっている。
3.保存剤については、ちゃんとしたリスク・ベネフィット評価をして社会にアピールすべきだ。
4.保全管理、メンテナンスというものが非常に重要である。
5.関連分野との交流を図るとともに、もっと外に向かって木材保存をアピールする必要がある。

といったことであります。すでに20年前、10年前にお示し頂いた活動の方向や展望ですが、これらの内容は今後ともわれわれの指針でもあると思っています。
先輩の方々の熱い思いを大切にし、さらなる10年に向けての活動を積極的に進めていきたいと思っています。皆様方の一層のご協力をお願い申し上げます。


((社)日本木材保存協会会長時 木材保存、34巻、150-151ページ、2008)