今村祐嗣のコラム

木をみて森も見る

ご承知の方も多いと存じますが日本木材学会は今年創立50周年を迎え、色々な企画や行事をおこなってきています。記念式典の開催、愛知万博への協賛事業としての「木の教室」イベント、木材学会誌に掲載された5500編以上に及ぶ論文のデータベース化、記念出版物「木のびっくり話100」の刊行等はすでに実施いたしましたが、これからインドネシアの植林・木材工業視察のR&Dツアーの企画、木材に関する教科書の出版、また、11月には横浜で国際シンポジウム(IAWPS2005)の開催がひかえています。木材学会では、この機をとらえて木材研究の重要性をより社会へアピールすることが大切と考え、「環境社会をきずく木質の科学と技術」を50周年にあたっての学会のスローガンとしました。すなわち、「森林資源を高度利用することが環境維持、循環型社会の構築、さらに健康生活維持に貢献する」ことを強く認識して、「人間の経済活動と地球環境維持の両立をめざすバイオマスの科学と技術の構築する」ことを活動の目標にしています。
木材学会の目指すところは、もちろん木材学に関する学術の発展ですが、先ほどのスローガンをアピールだけに終わらせることなく、具体化させることにも力を注いでいます。木材の利用促進を社会へ発信するため「木づかいのススメ」を発展させて、各種のメディアの協力の下、木材利用を推進するための措置を行うとともに、地球環境問題を具体的に取り上げようと考えています。実は、今から10年前の木材学会創立40周年に「化石資源から木質資源へ」という宣言が出されていて、木質資源をベースとする持続的な人類生存のシステムへ変換することの必要性を訴えています。この大会宣言には、持続性、環境保全、などという最近よく出てくるフレーズだけでなく、環境負荷の少ない生活スタイルや新しい価値観の創成まで踏み込んだ提言をしていて、その先見性を学会として誇りに思っています。この木材利用の原点と目標を示している内容を、さらに積極的に社会に訴えるのがわれわれのつとめでもあります。
ところで、最近学会員の方とお話ししていて気の付くことがありました。それは若い研究者であっても、あるいは、いわゆる先端的な研究を行っている研究者であっても、昔に比べて「木材」に関心が高くなっているということです。何を今更と言われるかと思いますが、彼らの普段の会話に森、樹木、木材、さらに産業としての木材工業の認識が高まってきている、という気がします。よく木をみて森を見ず、どころかセルロースとかリグニンという化学成分、あるいは細胞を見て木材を見ない研究者が多いのではないかという意見も聞かれましたが、近頃は工業や産業としての木材への意識が高くなったことは間違いないと思います。これは、地球温暖化防止に寄与する森林や木材の役割への認識の高まり、あるいは持続型社会の構築に果たす木質資源利用の重要性が、いよいよ実感されてきたことによるのではないでしょうか。
大学の林学科から林産工学科あるいは林産学科が分離してから30年以上を経て生物資源などの名称に変わったところも増えましたが、一方で学会としては林学会(現在は森林学会)との連携を強めようといううごきも逆に高まり、合同のシンポジウムも定例的に企画されています。また、今年5月には日本学術会議の改革にあわせ、幅広い学協会が連合して森林・木材・環境アカデミーも設立されました。
だれしも木材加工技術協会と木材学会とはまさしく兄弟という認識をもっていますが、今こそ連携をより深めていきたいという思いを強くもっている次第です。


(日本木材学会会長時 木材工業、60巻、477ページ、2005)