今村祐嗣のコラム

住まいとシロアリ ―シロアリの行動生態を通して考える―

アメリカカンザイシロアリ

日本の主要なシロアリが、イエシロアリとヤマトシロアリであることはよく知られているが、この2種は地下生息性シロアリと称されるグループに属するもので、いずれも土の中をおもな生息場所としている。場合によっては、枯死木や住宅の壁の中に巣をつくることがあっても、土中を移動の経路にし、特に水分供給を地下に求めている。とりわけイエシロアリは、枯れた樹木の根の下などに大きな巣を構築し、ギャラリーと呼ぶ地下蟻道を通って餌を探して行動することが多い。
しかし、最近わが国で、変わり者のシロアリによる被害が増えてきた。もう15年程前になるが、和歌山県の南の古座川町であまり見かけないシロアリが発生しているというので、学生たちをひきつれて出向いた。そこで見たシロアリは、木材中でのみ生息し、そこから水分を求めて外には移動しないシロアリであった。これが私と乾材(カンザイ)シロアリとの最初の出会いであるが、その後の調べで、この一風変わったシロアリはすでに1976年に東京で確認されていたということであった。
この乾材シロアリは、もともとわが国には生息していなかった種類で、「アメリカカンザイシロアリ」と名付けられているアメリカ原産のものである。乾材シロアリの一番大きな特徴は、まず乾燥材を食害し、そこに含まれている水分のみで生活し、外に水分補給を求める必要がまったくないということである。このシロアリ被害の発見は、柱や梁、あるいは家具などから外に向かって大量に排出されている、大変細かい粒状の木粉がきっかけになることが多い。これはカンザイシロアリの糞で、長さ0.5ミリ前後のきわめて形が整った俵状の形をしている。色は白~茶~褐色であるが、食材によって異なるようだ。からからに乾いた糞であるが、このシロアリが乾燥した木材を餌とし、そこに含まれる水分をしぼりとっていることを考えれば、しごく当然のことであろう。
もちろん女王アリも兵隊アリも働きアリもいて、また羽アリも発生することは他のシロアリと同様であるが、生活の基盤を乾いた木材の中においているということは、ある意味では外敵から保護されているということであり、また、あまり温度変化や環境湿度の影響を受けないということでもある。また、被害材の運搬によって長距離を移動しやすいとも考えられる。イエシロアリとヤマトシロアリの場合は、床下地面からの侵入を防ぐというのが、住宅の防蟻処理の前提であったが、カンザイシロアリでは木質部材にスポット的に被害が発生する場合がほとんどで、その処理を一層困難なものにしている。今のところ、十分な密封養生を前提とした薬剤の穿孔注入処理、あるいは被害対象全体のくん蒸処理がとり得る防除方法である。
新たな防除法の開発はもちろん必要であるが、学問的にはカンザイシロアリがいかにして10%前後の乾燥木材中の水分のみで生活しているか興味あるところである。


住まいの劣化診断

 住まいの劣化をチェックするポイントは、腐朽菌やシロアリの侵入の生理・生態をよく理解し、未然の防止と早期発見につとめることにある。また、住まいのどこが劣化しやすいかを考え、そこに注意を注ぐ必要がある。特に、腐れについては、土台、柱脚、筋交いなどの下部の含水率の上昇、窓枠やモルタル内部への雨仕舞いの不良、雨水の通路の不具合、給排水管やサッシなど金属に接する部位での結露などが留意すべき箇所である。また、釘や接合金物に起因する鉄汚染や藻類や草などの発生も、木質部材の水分状態が高くなっていることの指標として考えられる。
しかし、住宅構造の密閉化や大壁方式の普及により、住宅の劣化診断はより困難なものになってきている。腐朽や虫害など生物的な劣化では、あらかじめその進行を予測することは容易なことではない。また、部材の表面から劣化が進むとは限らず、むしろ腐朽やシロアリの被害も内部で生じることが多く、その検出を一層困難にしている。
住宅の劣化あるいは老朽度の診断法としては、現状においては目視、打音診断が主なものであるが、経験を要したり、診断が主観的にならざるを得ない。正確に劣化診断を行うには適切な治具を利用する必要がある。しかし、pHの変化をみる化学的な識別法、あるいは木材内部への物理的なボーリング方法(ピロデインやレジストメーター)、音響伝播を利用する手法が試みられているが、安定した判断を下せるまでには至っていない。
一方、シロアリが木材を加害する場合、 表面から順次食害することはほとんどなく、部材内部に穿孔して、 いわゆる蟻道を作りながら食害領域を拡大する。そのため、被害を早期の段階で検出するのはきわめて困難とされてきた。一方で、シロアリ防除は今後、土壌や木部の駆除的な薬剤処理ですませるのではなく、総合的な住宅の保守管理システムへと移行すると考えられる状況にある。この点からも加害探知法の確立の必要性はますます増大するといえる。
シロアリの職蟻が木材をかじる時に発生する微小な超音波(AE)を検知するセンサーを、建築時に住宅に組み込んだ無人の探知システムについても紹介したい。


(2007.4.16  JCII講演会)